糖尿病網膜症

はじめに〜糖尿病について〜

糖尿病は現代どんどん増え続けている病気です。患者数は300万人以上とされていますが、一説によると糖尿病が見つかっていない人を含めると1000万人程度いるのではないかとの推測もあります。つまり全人口で考えると10人に一人が糖尿病で、また実際の患者数で見ても50歳以上に限って言えば実に4-6人に一人が糖尿病なのです。糖尿病は最初のうちは血糖値が高いだけなので自分では気付かないことが多く、健診でたまたま見つかることも多い病気です。しかし気付かない間に血糖値が高い状態が長く続くことで様々な障害が出て来ます。糖尿病の3大合併症として神経症、腎症、そして網膜症があります。糖尿病は高血糖が長く続くことで細かい血管がどんどん詰まります。眼底の血管はとても細かいので、糖尿病の影響を強く受けます。日本人における視覚障害の原因の第2位が糖尿病網膜症です。糖尿病網膜症は毎年3000人が失明する恐ろしい病気です。
視覚障害の原因のグラフ
視覚障害の原因のグラフ

糖尿病網膜症とは

糖尿病による網膜症は長年の持続する高血糖によりどんどん血管が障害され続けることで以下のように進展します。
糖尿病網膜症とは

単純網膜症

高血糖による毛細血管の障害で眼底に出血や血管からの水漏れを起こします。まだ視力低下等の自覚症状はありません。この状態だと血糖値を改善することにより網膜症自体改善することがあります。
正常
正常
単純網膜症
単純網膜症

増殖前網膜症

血管障害がさらに進行して血流が途絶し、網膜が虚血(血が足りない)状態に陥ります。まだ視力低下等の自覚症状はないことがほとんどですが、ここまで悪化すると以下にあげる眼科的治療が必要になります。
正常
正常
増殖前網膜症
増殖前網膜症

増殖網膜症

虚血がひどくなると、そこに血液を送ろうと新生血管が出来てしまいます。一見良さそうに聞こえますが、これが悪さしかしません。慌てて急いで作った血管なので、非常にもろい血管で出血や水漏れをすぐに起こしてしまいます。それが原因で硝子体出血を起こしたり、新生血管周囲にたちの悪い増殖膜で出来てそれが網膜を強く障害します。ここまで来ると一気に視力は低下してしまいます。血糖値をいくらコントロールしても、網膜症はそれとは無関係に悪化の一途となります。
正常
正常
増殖網膜症
増殖網膜症

糖尿病黄斑浮腫

網膜の中心部にある、我々が字を読んだりするのに一番大事な黄斑が障害される状態です。黄斑近くの血管の障害で黄斑部に水漏れを起こし、黄斑が腫れた状態になって視力が低下します。これは網膜症の進行度とは必ずしも一致せず、一番軽い単純網膜症の状態からでも起こり得ます。さらに病期が進行するとさらにその発症率は高まります。
糖尿病黄斑浮腫
黄斑OCT
黄斑OCT

糖尿病網膜症の治療

薬物治療

網膜症に対する特効薬はありません。一にも二にも、まずは血糖値のコントロールです。
血糖値の高さの指標でHbA1cという数値がありますが、これをまずは7%以下にすることが目標です。また、急激な血糖コントロールや頻回の低血糖は網膜症を悪化させると言われています。

網膜光凝固(レーザー治療)

虚血に陥った網膜をレーザーで焼くことにより、網膜を“間引き”する治療です。網膜症の勢いを止めるための治療で、必ずしも視力を回復させる治療ではありません。網膜が虚血に陥る増殖前網膜症の状態になったらこの治療が必要です。
レーザー治療前
レーザー治療前
レーザー治療後
レーザー治療後

手術費用について

健康保険の負担割合により異なります。目安に関しては以下の通りですが、患者さまにより異なりますので詳しくはスタッフにお尋ねください。
自己負担割合 医療費
1割負担 片眼約10,000〜16,000円程度
3割負担 片眼約30,000〜48,000円程度
高額医療制度について
※70歳以上の方はひと月の医療費上限額が設定されています。また、70歳未満でも高額療養費の制度があります。ご不明な点は直接お尋ねください。
自己負担割合 医療費上限金額
1割、2割負担 両眼でも18,000円以上はかかりません。
(住民税非課税者は 8,000円以上はかかりません。)
3割負担 年収により費用が変わりますので、
詳しくはお問合せください。
なお、医療保険にご加入の方はその契約内容により給付金を受け取れることがあります。ご自身の契約内容をお確かめください。

硝子体手術

増殖網膜症に至り、硝子体出血を起こしたり、増殖膜が網膜を引っ張って網膜剥離を起こしてくるような状態になると手術が必要です。
硝子体手術
手術前(硝子体出血)
手術前(硝子体出血)
手術後
手術後
硝子体手術について詳しくはこちら

糖尿病黄斑浮腫の治療

黄斑部が障害されると視力低下やものがゆがんで見える、見たいところが見えない、といった症状を引き起こします。

網膜光凝固(レーザー治療)

黄斑部に腫れを起こしている毛細血管瘤などがはっきりしていれば、その部分を直接レーザーで焼くことにより水漏れを止めます。
レーザー治療

手術費用について

健康保険の負担割合により異なります。目安に関しては以下の通りですが、患者さまにより異なりますので詳しくはスタッフにお尋ねください。
自己負担割合 医療費
1割負担 片眼約10,000〜16,000円程度
3割負担 片眼約30,000〜48,000円程度
高額医療制度について
※70歳以上の方はひと月の医療費上限額が設定されています。また、70歳未満でも高額療養費の制度があります。ご不明な点は直接お尋ねください。
自己負担割合 医療費上限金額
1割、2割負担 両眼でも18,000円以上はかかりません。
(住民税非課税者は 8,000円以上はかかりません。)
3割負担 年収により費用が変わりますので、
詳しくはお問合せください。
なお、医療保険にご加入の方はその契約内容により給付金を受け取れることがあります。ご自身の契約内容をお確かめください。

ステロイド薬後部テノン嚢下注射

ステロイド薬(トリアムシノロン)を眼の奥の眼球の周りに注射します。これで黄斑浮腫が引くことが期待されます。
ただ効果は出ないことも多く、また効果があったとしても再発することも多いので繰り返しの治療が必要です。
ステロイド薬後部テノン嚢下注射

注射費用について

健康保険の負担割合により異なります。目安に関しては以下の通りですが、患者さまにより異なりますので詳しくはスタッフにお尋ねください。
1割負担:片眼約900円程度
3割負担:片眼約2,700円程度

抗VEGF注射

糖尿病網膜症では虚血になるとVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor, 血管内皮細胞増殖因子)という物質が深く関係し、それにより新生血管が出来ることがわかっていましたが、黄斑浮腫の形成にも深く関与していることがわかってきました。このVEGFというのは我々自身が分泌する物質ですが、これに対する抗体製剤を直接眼の中に注射(硝子体注射)することでVEGFを無力化して黄斑浮腫を改善させようとする治療です。黄斑浮腫が軽快することが期待出来ますが、効果がない場合があったり、また効果はあっても長続きしないことも多く、再発すれば再度注射するか検討が必要です。
抗VEGF注射
抗VEGF注射

注射費用について

健康保険の負担割合により異なります。目安に関しては以下の通りですが、患者さまにより異なりますので詳しくはスタッフにお尋ねください。
自己負担割合 医療費
1割負担 片眼約16,000円程度
3割負担 片眼約47,000円程度
高額医療制度について
※70歳以上の方はひと月の医療費上限額が設定されています。また、70歳未満でも高額療養費の制度があります。ご不明な点は直接お尋ねください。
自己負担割合 医療費上限金額
1割、2割負担 両眼でも18,000円以上はかかりません。
(住民税非課税者は 8,000円以上はかかりません。)
3割負担 年収により費用が変わりますので、
詳しくはお問合せください。
なお、医療保険にご加入の方はその契約内容により給付金を受け取れることがあります。ご自身の契約内容をお確かめください。

硝子体手術

上記治療で効果がない場合や、上記治療が不可能な場合には手術を検討します。
硝子体手術
硝子体手術について詳しくはこちら

最後に

上述のように、糖尿病患者自体がどんどん増えている上に、糖尿病網膜症は成人の中途失明の原因となる非常に重要な疾患です。一にも二にも、糖尿病にならないように普段から気をつけて摂生するのが一番大事ですが、それだけでも必ずしも予防出来るものでもありません。不幸にして糖尿病になってしまった場合には、内科でしっかり血糖値の管理をしてもらうことが肝要です。糖尿病網膜症はかなり進行して初めて視力低下します。その状態で初めて眼科を受診して治療を開始するのでは遅いのです。悪化を止められないことが多いものです。自覚症状がないうちからレーザー治療等適切な時期に開始する必要があります。糖尿病になってしまったら、視力低下等の自覚症状がなくても必ず定期的に眼科受診するようにしましょう。またご自分で糖尿病の程度を知っている必要があります。その一番の指標がHbA1cです。眼科受診の際にはそれも眼科医にお伝えください。