ぶどう膜炎とは
ぶどう膜とは眼球内にある、虹彩、毛様体、脈絡膜のことを指しますが、眼内の炎症性の病気を総称してぶどう膜炎と呼んでいます。
眼だけの病気というよりは、全身の血管の病気が何らかの形で反映されることが多く、その1症状としてぶどう膜炎が起こることが多いものです。ぶどう膜炎を引き起こす代表的な原因疾患としてはサルコイドーシス、Vogt-小柳—原田病、ベーチェット病等がありますが、その他の自己免疫性疾患や、また感染症、腫瘍性疾患などいろいろな病気があります。また、現代医学では判っていない原因も多く、いろいろ原因を調べても結局は原因不明となる場合も少なからず存在します。
ぶどう膜炎があると、身体の病気がないか様々な検査が必要です。具体的には、血液検査、胸のレントゲン写真、ツベルクリン反応、髄液検査等、どのようなぶどう膜炎かにより、必要な検査を行います。
ぶどう膜炎の症状
充血
炎症が激しく起こると白目が充血します。
飛蚊症
眼の奥に炎症があると硝子体の中に濁りが出て、それにより飛蚊症を感じます。
視力低下
眼内の前の部分(前眼部)に強い炎症があったり、眼の奥に濁りが出たり、また網膜の中心部に炎症が及ぶと視力低下します。
慢性のぶどう膜炎では炎症そのものによる影響や治療薬(主にステロイド)による副作用で、併発症として白内障や緑内障を起こしてくることも多く、それによる視力低下が起こることもあります。
代表的なぶどう膜炎
サルコイドーシス
肉芽腫という、炎症によって出来る炎症細胞の塊のようなものが全身の臓器、特に肺と眼に出来て様々な障害を引き起こす病気です。ぶどう膜炎の原因疾患として最も多いものです。
ぶどう膜炎は前眼部の激しい炎症から硝子体の混濁、網膜血管炎まで、眼球全体に様々な所見を呈します。
眼所見からサルコイドーシスが疑われる場合には肺に病変がないかレントゲン写真で検査したり、他に血液検査やツベルクリンの検査を行います。
完全に原因はわかっておらず、厚生労働省の特定疾患に指定されています。
Vogt-小柳—原田病
メラノサイトという色素細胞に対する自己免疫疾患です。免疫というのは本来、外界から入ってきた異物を排除するために私たちが持っている機構ですが、これが誤って自分のものに対して攻撃してしまうのが自己免疫疾患です。この病気は自己の持つメラノサイトを誤って攻撃してしまうために起こります。
典型的には風邪様症状があった後に急激な視力低下やゆがんで見える症状が起こります。眼所見からこの病気が疑われる場合には血液検査に加えて髄液検査が必要です。血液検査では白血球のタイプを調べるHLA検査が診断の助けとなります。この病気の人はHLA-DR4いう型を持っている場合がほとんどであることがわかっています。
ベーチェット病
口内炎や皮膚の紅斑といった、全身の炎症が悪くなったり良くなったりを繰り返す病気です。ぶどう膜炎も発作的に炎症が出ては一旦よくなり、またしばらくして炎症発作を起こすという特徴があります。炎症発作を繰り返すことで眼の組織が不可逆的にダメージを受け続け、次第に視力が低下する病気です。ベーチェット病ではいかにこの炎症発作を起こさせないようにするかが治療の鍵となります。“解夏”という映画ではこの病気のために次第に視力を失って行く若者が描かれています。
以前は失明する病気の代表でしたが、現在はインフリキシマブ(後述)という治療薬がベーチェット病によるぶどう膜炎に適応認可されており、劇的に炎症発作が押させられるようになりました。
この病気も原因はわかっておらず、厚生労働省の特定疾患に指定されています。
急性前部ぶどう膜炎
急性に眼の中の前の部分(前眼部)に激しい炎症を起こすぶどう膜炎です。
上述のHLAに相関するもの(HLA-B27)や、自己免疫疾患(関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、クローン病等)に相関して起こる場合があります。
慢性化すると炎症が眼底にも及んで眼底病変を起こすことがあります。
HTLV-1関連ぶどう膜炎
成人T細胞白血病を起こすHTLV-1というウイルスにより起こるぶどう膜炎です。ウイルスそのものが起こす炎症いうよりは、ウイルスに対する免疫反応で起こる炎症と考えられています。
このウイルスは九州、特に長崎と佐賀で持っている人が多く、したがってこのぶどう膜炎も九州では比較的よく経験しますが九州以外では滅多にいないと言われています。
Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎
比較的頻度の高いぶどう膜炎で、虹彩異色(虹彩の色が左右眼で異なる)が特徴のひとつです。原因は明確にはわかっていませんが、風疹ウイルスやサイトメガロウイルス等と関連があるもと言われています。
白内障や硝子体混濁を併発することがあり、視力が低下すればそれらに対する手術治療が必要になることがあります。
以上代表的なものをあげましたが、この他にもヘルペスウイルス性虹彩毛様体炎、糖尿病によるぶどう膜炎、水晶体起因性ぶどう膜炎等さまざまあります。
また、悪性リンパ腫が眼に出てあたかもぶどう膜炎様の所見を呈することがあり(仮面症候群と言います)、生命に関わる病気ですので注意が必要です。
ぶどう膜炎の治療
ぶどう膜炎は全身の病気と関連することが多いため、全身の治療も併せて必要なことがあります。全身の症状がない場合には眼の局所治療となります。
ステロイド治療
炎症を抑える薬です。全身の症状がなければ基本的にはステロイド点眼や、眼の奥に炎症が強い場合にはステロイド薬を眼の奥に注射したりします。このような眼の局所治療で治まらない場合にはステロイド薬の全身投与が必要になることもあります。
免疫抑制薬
ステロイド薬だけでは消炎が不十分な場合や、ステロイド薬による副作用でステロイド薬が使用できない場合に用います。
コルヒチン
痛風の治療にも用いられる内服薬ですが、白血球の中の好中球の働きを抑える薬で、ベーチェット病によるぶどう膜炎の炎症発作を抑制するために用います。
抗TNF-α治療
TNF-αという炎症を起こさせる物質がありますが、このTNF-αに対する抗体製剤です。つまり、炎症を起こそうと体内から発せられる TNF-αを捕まえて無力化し、炎症を抑制するものです。
抗TNF-α抗体製剤のひとつであるインフリキシマブ(商品名レミケード) がベーチェット病のぶどう膜炎に対して2007年に世界で初めて我が国で適応認可されました。多くのベーチェット病ぶどう膜炎の患者さんがこの治療により炎症発作が抑えられ、視力予後が大幅に改善しています。
ベーチェット病ぶどう膜炎のレミケード投与前後の眼炎症発作の頻度
また2016年には別の抗TNF-α抗体製剤であるアダリムマブ(商品名ヒュミラ)が全ての非感染性ぶどう膜炎の治療に対して適応認可されました。
いずれの抗体製剤も多くの自己免疫疾患(関節リウマチや潰瘍性大腸炎、クローン病など)に対して素晴らしい治療実績のある薬剤です。今後重症ぶどう膜炎に対するこれら抗体製剤による治療により多くの患者さんの視力予後が改善されることが期待されています。
インフリキシマブは8週間毎の点滴投与、アダリムマブは2週間毎の自己注射を行う薬剤で、内科で副作用が起こらないかを経過観察しながらの投与が必要ですので、当院では必要と判断した場合には九州大学病院または福岡大学病院へご紹介しています。
その他、ぶどう膜炎の炎症による影響やステロイド薬の副作用による併発白内障や続発緑内障、また炎症が硝子体に及び硝子体混濁、黄斑浮腫、黄斑上膜(黄斑前膜)等が起こればそれらに対する治療が必要になります。
併発白内障
続発緑内障
眼圧が上昇すればまずは眼圧を下げる点眼治療を行いますが、それでも下がらない場合は手術治療が必要になることもあります。
硝子体混濁、黄斑浮腫、黄斑上膜
ステロイド薬の後部テノン嚢下注射を行ったり、ステロイド薬内服を行うことがあります。それでも改善しない場合には硝子体手術を行うことがあります。また眼底の炎症が強い場合には網膜光凝固(レーザー治療)を行うこともあります。